マインドカウンセリング
2025/10/2
5つの傷と心を癒す道のり

私たちの心には、子どもの頃から積み重ねてきた「傷」があります。フランスの心理学者リズ・ブルボーは、人が抱える苦しみの多くが「5つの傷」に由来すると提唱しました。この理論は自己理解のツールとして世界中で支持され、心理学や自己啓発の分野でも広く語られています。
この記事では、その5つの傷とは何か、そしてそれをどう癒していけばいいのかをわかりやすく整理していきます。
5つの傷とは?
リズ・ブルボーによれば、人は成長の過程で「ありのままの自分では愛されない」という体験をし、そのときの痛みを「傷」として心に刻み込みます。その傷は大人になってからも私たちの言動に影響を与え、ときに人間関係を難しくする原因になります。
ブルボーが整理した5つの傷は次の通りです。
- 拒絶の傷
存在そのものを認めてもらえなかった感覚。「いてはいけない」と感じやすく、孤独を抱えやすい。 - 見捨ての傷
必要なときにそばにいてもらえなかった感覚。「大切にされない」という恐れから依存や不安を抱きやすい。 - 屈辱の傷
自分の欲求や存在を恥じさせられた感覚。「自分は恥ずかしい存在」と感じ、過剰に人に尽くしてしまう傾向がある。 - 裏切りの傷
信じていた人に裏切られた感覚。コントロール欲や嫉妬、不信感となって表れる。 - 不当の傷
正当に扱われず、公平さを欠いた扱いを受けた感覚。完璧主義や過度な頑張りとなって現れやすい。
これらは誰もが程度の差こそあれ持っているものです。大切なのは「自分にはどの傷があるのか」を知り、それを否定せずに受け止めることです。
傷が私たちに与える影響
この5つの傷は、いわば「心のレンズ」です。私たちは世界をニュートラルに見るのではなく、傷を通して物事を解釈しています。
たとえば、拒絶の傷を強く持つ人は、ちょっとした無視や冗談を「嫌われた」と感じやすくなります。裏切りの傷を持つ人は、人を信じたいのに「また裏切られるかもしれない」と不安に駆られます。
つまり、傷は「現実そのもの」ではなく「現実をどう感じるか」に影響しているのです。この視点を知るだけでも、人間関係の誤解や自分自身への厳しさを少し和らげることができます。
傷を癒すためにできること
1. 傷を知ること
まずは自分の傷に気づくことが出発点です。リズ・ブルボーは、心のパターンを理解する手掛かりとして、思考や感情の癖、身体の特徴まで分析しています。書籍やワークを通じて「私はこの傷を強く持っている」と認識できるだけでも、大きな一歩です。
2. 傷を否定しない
多くの人は「こんな自分ではダメだ」と傷を隠そうとします。しかし、隠すほどに傷は強く作用します。むしろ「私は傷を持っている。それも私の一部だ」と認めることが癒しの入り口になります。
3. 傷が作った「仮面」に気づく
傷を守るために、人は無意識に「仮面」をかぶります。拒絶の傷なら「いないふり」をする仮面、裏切りの傷なら「支配する」仮面といった具合です。この仮面は一時的に役立つのですが、やがて自分や他人を苦しめます。自分がどんな仮面をかぶっているのか気づくことが重要です。
4. インナーチャイルドをケアする
傷の多くは子ども時代に受けたものです。当時の「小さな自分」に寄り添い、声を聴き、「もう大丈夫だよ」と安心させることが癒しになります。これは心理療法でもよく使われる手法です。
5. ありのままの自分を許す
癒しのゴールは「自分を完全に変える」ことではありません。むしろ「傷を持ちながらも私は価値がある」と腑に落ちることです。完璧さよりも、ありのままを受け入れる優しさが心を自由にしてくれます。
まとめ:傷は弱さではなく、成長の種
リズ・ブルボーが説いた「5つの傷」は、私たちの弱さを暴くためではなく、成長の道しるべとして提示されたものです。
傷を知ることで、自分を責めるのではなく理解できるようになります。他人の振る舞いも「この人の傷が反応しているのかもしれない」と思えば、少し寛容になれます。
大切なのは、傷を恥じるのではなく、それを通して自分を深く知り、より自由に生きること。心の傷は、私たちを縛る鎖であると同時に、解き放つための鍵でもあるのです。